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最高裁判所第二小法廷 昭和44年(オ)714号 判決

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人知気寿、同山中大吉の上告理由第一点ないし第三点について。

原判決(その引用する第一審判決を含む。以下同じ)の事実認定は、その挙示の証拠に照らして肯認することができ、その確定した事実関係のもとにおいては、質屋営業および金融業を営む上告人は、自動車についてはいわゆる所有権留保の割賦販売が広く行なわれていることを熟知しているはずであるから、面識のない訴外宮中四郎から一見新車と認めうる本件軽自動車を金融のため買い受けるにあたつては、同人がこれを処分しようとする事情および処分権限の有無について疑いを抱きこれを調査すべきであり、かつ、その確認は決して困難ではなかつたのであつて、上告において、知人の紹介を受けたほかなんらの調査をせず、漫然宮中に処分権限があるものと信じて取引に応じ本件軽自動車の占有を取得したことには過失があるものとする原判決の判断は、正当として是認することができる。所論質屋営業法二二条の規定は盗品または遺失物以外の物の質受けについて質屋の注意義務を特に軽減した趣旨のものとは解されず、右事実関係のもとにおいては、宮中が本件軽自動車を被上告人から詐取したものかどうかは右過失の判断をなんら左右しえないものであつて(なお、詐欺による契約の取消は善意の第三者に対抗しえない旨の上告人の主張は前提を誤るものであつて失当であるとした原判決の判断も正当である)、右判断になんら所論の違法はない。したがつて、論旨は採用することができない。

よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 草鹿浅之介 裁判官 城戸芳彦 裁判官 色川幸太郎 裁判官 村上朝一)

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